「今からWebサイトを作るなら、WordPress以外の選択肢もあるのでは」。そんな声を、ここ数日でよく見かけるようになりました。
きっかけになった投稿の動き
2026年8月13日前後に、X上でいくつかの投稿が大きく広がりました。「今からWebサイトを作るのに、WordPressっていう選択肢ってあるのか?」という投稿に多くの反応が集まり、引用や返信も活発に行われています。それに続く形で、「WordPressの後継になり得るオープンソースCMS『EmDash』をCloudflareが出している」と紹介する投稿も広く読まれました。
背景にあるのは、直近で立て続けに発生したWordPressの重大なセキュリティ問題です。7.0.3のXSS2Shell、7.0.4のImagick経由のRCEと続いたことで、「既存サイトの運用はともかく、これから新しく作るサイトでWordPressを選ぶ意味はあるのか」という問いが、あらためて浮上した形と言えます。
EmDashとは何なのか
Cloudflareが2026年4月1日に発表したオープンソースのCMSで、公式には「WordPressの精神的な後継者(spiritual successor)」と位置づけられています。
完全にTypeScriptで書かれ、フロントエンドにはAstro 6.0を採用。サーバーレス設計でCloudflare Workers上での動作を前提としていますが、Node.js環境や自前のハードウェアでも動かせます。ライセンスはMITです。WordPressのコードを一切使用していないため、GPLではなく、より緩やかなライセンスを選べています。
最大の差別化ポイントは、プラグインのセキュリティモデルです。WordPressのセキュリティ問題の約96%がプラグイン起因とされることを強く意識し、各プラグインを「Dynamic Workers」という隔離されたサンドボックス内で実行します。分離の単位はブラウザと同じV8 Isolateで、CPU時間とメモリの上限もプラグインごとに設けられています。必要な権限はマニフェストであらかじめ宣言させる仕組みで、プラグインがデータベースやファイルシステムへ無制限にアクセスすることができません。
もうひとつの特徴が、AIネイティブ設計です。組み込みのMCPサーバー、CLI、Agent Skillsを備え、AIエージェントがコンテンツ管理やスキーマ変更、移行作業を自律的に行えるよう設計されています。認証はデフォルトでPasskeysを採用し、パスワードレスが基本。WordPressからの移行用に、WXRファイルのインポート機能や専用のエクスポータープラグインも用意されています。
現在の状況(2026年8月時点)
発表当初はv0.1.0の開発者プレビューでしたが、その後も更新が進み、8月中旬時点で0.33.0前後のバージョンが出ています。GitHubのスター数も1万を超えました。
ただし、まだ「本番利用を強くおすすめできる段階」ではありません。公式リポジトリ自身が現在もbeta previewと位置づけています。プラグインやテーマのエコシステムが十分に成熟していないこと、Dynamic Workersを本格的に利用するにはCloudflareの有料プランが必要になること。このあたりは制約として認識しておく必要があります。
なぜ今、関心が高まっているのか
理由は大きく3つあると考えています。
ひとつめは、セキュリティへの再認識です。立て続けに発生したコアの脆弱性によって、「プラグインの隔離が根本的にできていない」という構造的な課題があらためて意識されました。
ふたつめは、コストと運用負荷の観点です。Cloudflareのエコシステムにまとめることで管理コストを下げられるという期待があり、特に小規模から中規模の新規サイトで「サーバー管理をできるだけ減らしたい」というニーズと重なっています。
みっつめは、AI時代への適合性です。WordPressも7.0以降でAI機能を強化していますが、EmDashは最初からエージェント制御を前提に設計されている。この点が魅力に映っているようです。
現時点でどう考えるか
現時点で「WordPressを完全に捨ててEmDashへ移行すべき」という結論には至っていません。既存の巨大なエコシステム、これまでの実績、コミュニティの厚み。これらは依然としてWordPressの大きな強みです。
その一方で、「これから新しくサイトを作る場合には、WordPress以外の選択肢も真剣に検討する価値がある」という空気が、特に技術寄り・セキュリティ意識の高い層で広がっているのも確かです。EmDashはその代表的な候補として、8月中旬の議論で再びスポットライトを浴びた。そう言える状況だと思います。